マイナビ進学総合研究所の研究員に、自身の経歴やキャリアについて語ってもらった。現在携わっている専門分野や、それを専門とするに至った背景についても語る。
とにかく真面目な学生だった
小学校や中学校では、いたって真面目な優等生という感じであった。先生や親の言うことを聞き、学級委員も務め、勉強も部活も人一倍頑張り、結果的に大阪府内でトップの公立高校へ入学した。高校の入学式では、新入生代表の式辞も述べた。(入試成績トップの男子3名、女子3名が集められ、その中で自ら立候補した。)体育系の部活(ハンドボール)に入り、中学・高校どちらもキャプテンを務めた。高校では府大会ベスト8まで進み、スポーツ推薦で選手を集める強豪私立がひしめくなか、公立校としては最大限の努力をしたと思う。総じて、いわゆる”いい子ちゃん”であった。
大学受験では、現役で京都大学に合格した。高3の夏休みは毎日10時間以上勉強したし、秋以降は過去25年分の京大入試問題を解いた。勉強という、わかりやすい努力であれば人並み以上に頑張れる性格であったように思う。
大学でも、中高と同じ部活に入った。サークルではなく体育会で3年半を過ごし、全日本インカレ出場まであと1勝・・・という試合で敗れた。とにかくひたむきな努力を続けた学生生活だった。また、ゼミではマッキンゼー出身の教授のもと、経営戦略を学んだ。
4回生では上記の経験を武器に、ほぼ何の苦労もなく就職活動を終えた。総合商社や大手電機メーカーの内々定を断り、トヨタ自動車に就職することを決めた。世界に誇る一流企業への入社を、一番喜んでくれたのは両親だった。
早期離職と振り返り
あえて順調な人生のような書き方をしたが、山があれば谷がある。入社後、わずか1年で私はトヨタ自動車を退職した。別の転職先を見つけたのではなく、仕事が辛くなっての早期離職であった。自動車の仕組みがわからない、英語がわからない、任された仕事の進め方がわからない。たまたま配属された海外事業部に大きな熱意を抱けず、辛さが募る一方だった。耐えかねて逃げ帰った実家から、上司に電話をして退職の意を伝えた。(間違っても、会社を悪く言う意図はない。)
小中高大と真面目に努力し、受験や就活をクリアしてきた自分が、まさか無職になるとは正直思っていなかった。大いに落ち込んだが、このとき初めて自分の人生の価値観や、進路選択というものと深く向き合うことになった。
振り返ると、過去のどんな岐路においても「自分の強い意志」はなかったことに気づく。中高大と続けた部活も、入部のきっかけは単に同級生に誘われたからだった。京都大学を目指したのも「偏差値が高い」「就職が安泰のはず」という程度の志望理由。確かに受験は死に物狂いで頑張ったが、入学後はからきし勉強しなかった。そもそも経済学部を選んだのも「サラリーマンやるどうし経済を学んでおいて損はないだろう」という程度のもので、そこにアカデミックな熱意や興味はほとんどなかった。就職先選びで軸にしたのは「大企業」「人のよさ」「成長できそう」という、当時の就活界隈で皆が口を揃えて言いそうなものであった。入社の最後の決め手に、「突き詰めた自分の意志」は到底なかった。
振り返りの結果、 ”自分の強い意志が伴わない進路選択には熱意が生まれず、成果も出せなければ続きもしない” 、という自分自身の特性がよくわかった。 ”周りの声に影響されやすい”とも言える。受験シーズンになると、進学先選びについて学校の先生や友達の多くの声が、否が応でも聞こえてくる。おれたちは進学校にいるから、当然偏差値の高い大学に行くんだ、と。就活シーズンも同様で、企業選びの考え方や、いわゆる「これが王道だよね」的な声が多く聞こえてくる。大学選びも、学部選びも、就職先選びも、自分で決めたように見えて、十分に「周りの考え方」が浸潤した上での決定だった。その選び方では、進学や入社のその先に、実が伴わなかった。「周りの声」ではなく「自分自身の声」「自分自身の価値観」を見つめることの大切さを、無職になって深く実感した。
「自分の人生を生きている感覚」
無職の期間、徹底的に自己分析を行った。自分にとっての幸せは何か。自分の得意なことは何か。何に対して頑張れるか。今度こそ「自分自身の声」をよく聴いて、次なる進路を考えた。同時に、出来る限り多くの選択肢を検討するように意識した。大学選びや就職先選びのときは、それほど多くの選択肢を見ていなかった。そのためか、別の学校や別の企業のことを、あとで羨ましく思うこともあった。再就職までの3か月間はひたすら転職サイトを見たが、あとになって数えると1,000社近くの紹介ページを見ていた。
ひたすら企業を見ていく中で、「これだ」と思えたのがマイナビだった。進学、就職、転職・・・人生の様々な岐路における選択肢を、幅広く提供するという事業内容には、自分自身の過去の経験からしてとても賛同できるものだった。募集中の具体的な職種内容を見てみると、「マイナビ進学」の利用促進のために高校へ出向いて進路講演会などを行う、とある。まさしく自分の失敗経験も伝えられるし、学級委員や部活のキャプテンの経験上、人前で話すことは苦ではない。仕事である以上、講演の回数やマイナビ進学の利用数(大学等の資料請求数)で厳しく評価される。しかしながら、専ら中高大と体育会で過ごした自分にとって、努力が成果に現れ評価される世界は、むしろわかりやすく、心血を注げるものだった。
冷静に考えれば当たり前ながら、「世間一般に良いとされる価値観や尺度」ではなく「自分の声」を重視し、狭い視野ではなく多くの選択肢を検討し、強い意志で選択した第2の会社だったが、無事に続けることができた。むしろ情熱を打ち込み、(これまでのところ、)とても充実した時間を過ごせたと感じる。再就職の際に「企業の大きさ」「人のよさ」「成長できそうか」はほとんど見なかったが、結果として充実感や「自分の人生を生きている感覚」は新卒時よりも遥かに高かった。かくして進路選択の失敗も成功も経験し、今の会社での生活が続いている。
「高校生の進路選択のメカニズムを解明したい」
さて、入社して高校訪問活動を繰り返す中で、世の中には本当に多種多様な人生観や価値観があることに気づく。当たり前の話だが、高校生が進路先を選ぶ理由は実に様々だ。将来をよく考えて決める人もいれば、指定校推薦枠があったからというだけの人もいる。重視する点も人それぞれだし、家族や友人や先生など、影響を受ける相手も様々だ。進路指導室で先生と生徒、私の3人で夜の9時まで一緒に悩ませてもらったこともあった。約6年間で2,850回にのぼる高校訪問によって、今の高校生は果たしてどのような考えで進路選択をしているのか、とても興味を持つようになった。
また、「マイナビ進学」への広告出稿主である上級学校の方々は、日夜「どうすれば高校生に魅力が伝わるか」を考えている。学校広報において、情報の内容や発信タイミング、発信経路等はとても重要だ。つまり、”高校生が何にどう影響されるか”を知る必要がある。
折しも、いくつかの部署異動を経て、現在の調査業務にあたることになった。高校生の進路選択のメカニズム(どのような考えで進路選択をするのか。何を重視し、何に影響され、何がきっかけで、どんな意思決定で、進学先が決まるのか。)を解明していくことは、私自身の興味関心を満たすのみでなく、少なからず上級学校の方々にも役立つことのように思えた。
マイナビ進学総合研究所の調査は多岐のテーマにわたる。高校生の進路決定状況を定点観測するものや、上級学校からのDMの効果を検証するものもある。調査対象者は高校生のみならず、保護者や高校教員とするケースもある。どの調査であっても、根底にあるのは「高校生の進路選択のメカニズムを解明したい」という思いと、それを通じて「学校関係者に役立つ情報を発信したい」という思いだ。齢十八の高校生が人生の岐路に立っているわけで、その選択は単純なわけがない。分析をしても明確な答えが出ないことの方が多い。しかし、かえって調査研究にあたっては興味関心が尽きない。今後もマイナビ進学総
合研究所での調査業務に邁進していきたいと思う。
マイナビ進学総合研究所 研究員
青木 湧作
マイナビ進学総合研究所 研究員
青木 湧作
マイナビ進学総合研究所 研究員。高校生の進路選択に関する調査全般に携わる。前職はトヨタ自動車株式会社。中南米地域の事業企画を担当。京都大学経済学部出身。2014年マイナビに入社。高校訪問を通じ進路サポート活動に従事。その後、上級学校向け募集管理システムを扱う部署や事業戦略の部署を経て、2022年より現在の部署に配属。