大学に直接足を運び、授業や学生生活の雰囲気を感じることができるオープンキャンパスは、高校生にとって大学を知る貴重な機会。では、オープンキャンパスにおいて、どのような体験や印象を与えることが志望度を左右するのか。今回は、2024年9月に全国の高校3年生 803人を対象に行った「オープンキャンパスに関する実態調査」を基に、よりリアルな声を知るために現役高校3年生3人に話を聞いた。(本記事中のグラフは前述の調査資料より掲載)
▼参加者
Yさん(女子・高3)
埼玉県在住。保育関係の進路を念頭において、複数のオープンキャンパスに参加。指定校推薦で受験予定。
Tさん(女子・高3)
福島県在住。将来は管理栄養士を目指し、具体的なビジョンを持ってオープンキャンパスに参加。選抜方法について詳しく知りたいと考えている。
Mさん(女子・高3)
埼玉県在住。ファッション関係に興味があり、オープンキャンパスでは、大学で学べることやどのような学生生活を送ることになるのかなどを知りたい。
模擬授業や受験対策講座の内容が差につながる?
(質問)参加したプログラムについて、学校の志望度が上がったプログラム/下がったプログラムをお知らせください。
志望度に影響したプログラムについて質問をしたところ、出願すると決めた大学については、志望度の上がったプログラムが複数挙がった。「学部説明」「キャンパスツアー」「受験対策講座」などのプログラムにおいて、出願すると決めた大学と出願しないと決めた大学とで回答割合に差が大きく見られた。
――オープンキャンパスで参加したプログラムについて、みなさんが出願すると決めた大学と出願しないと決めた大学にはどのような差があったかを教えてください。
Tさん:私が差を感じたプログラムは「模擬授業」です。授業をしてくれた教授の話し方や伝え方、授業全体の雰囲気の違いによって、自分には合わないと思った大学と、好印象を持った大学がありました。苦手に感じたのは威圧的な雰囲気があるところです。逆に、いいなと思ったのは、雰囲気が優しく、内容を深く掘り下げてくれる授業で、「ここに行ったら意欲的に学べる」と思えました。そこは、事前にインターネットで情報を収集していた時には特に好印象はなかった大学なのですが、「模擬授業」を受けたことで「行きたい」という気持ちを持つようになりました。
Mさん:私も「模擬授業」が印象的です。ファッションについて学びたいと考えていたので、「模擬授業」で実際に服をつくる過程を知ることができた学校は、「こんなことが学べるんだ」という具体的なイメージがわき、志望度が上がりました。ファッションの歴史を学び、そこからデザインを考えていくという一連の流れを知ることができましたし、先生が気軽に声をかけてくれたことも良かったです。授業以外では、先輩方が作った作品を見せてもらったこともモチベーションアップにつながりました。
Yさん:私が出願すると決めた学校のオープンキャンパスでは、「受験対策講座」がありました。総合型で実施される集団討論を模擬形式で実施してくれたのですが、受験前にそれを経験できたことが良かったです。討論の内容について、大学の先生からの意見を直接聞けたことも、とても参考になりました。
――Yさんは「受験対策講座」で志望度が上がったということでしたが、ほかの方は「受験対策講座」に参加したことはありますか?また、志望度に何か影響がありましたか?
Tさん:私が「受験対策講座」を受けたのは、もともと受験したいと考えていた大学なので、他と比べて志望度に差が出るということはありませんでした。ただ、参加することで、受験のためにどんな勉強をすればいいのかがわかったことは、良かったです。
Mさん:私は「受験対策講座」ではありませんが、受験についての説明会には参加しました。総合型、指定校、一般など複数の選抜形式や、一般選抜にも3教科型、2教科型、英検利用型などのさまざまな形式があり、自分に合った方法を選ぶことができるとわかって、安心しました。もちろん、大学のホームページに選抜形式などの説明はあったのですが、先輩方がそれぞれの形式で実際に受験された話を聞けたことで、より安心感につながったんだと思います。
良い印象を与えるキャンパスツアーや、「親しみやすさ」を感じさせる教職員の特徴
――「キャンパスツアー」についてはいかがですか?参加したことで志望度が上がったことや下がったことはありますか?
Yさん:いいなと思ったのは、その学部で使う教室や施設を中心に、見たいところを優先して案内してくれた「キャンパスツアー」です。ピアノ教室や保育実習を行う附属保育園など、保育系の学部で学ぶ際に重要になる場所を見学できました。あまりいい印象ではなかった「キャンパスツアー」は、大学の施設全部を巡るものです。夏で暑かったですし、時間もかかって、疲れてしまいました。全部を見ることも大切かもしれませんが、自分にとってあまり関係ない場所もありましたし、大学に入ってから見ればいい場所は、「キャンパスツアー」には不要だと思えました。
Tさん:私は、案内してくれた在学生の印象が良い時に志望度が上がりました。5〜6人くらいの少人数で巡る「キャンパスツアー」で、案内役の在学生に直接質問をすることもできました。資料通りの説明だけではなく、在学生が自分の体験をメインに教えてくれるので、学校生活の雰囲気もわかって良かったです。逆に良くなかったのは15人くらいの大人数で巡るもので、後ろの方にいると話している内容が聞こえないし、気になったことを質問することもできませんでした。
Mさん:私がいい印象を持った「キャンパスツアー」では、途中で自由見学の時間がありました。学生の方の案内する内容だけでなく、図書館の蔵書の種類やボリュームなど、自分が気になったところを詳しく見ることができました。
(質問)参加したイベントについて、キャンパスツアーの教職員において、志望度・満足度が上がったポイントがあれば全てお知らせください。
「参加したイベントについて、キャンパスツアーの教職員において、志望度・満足度が上がったポイントがあれば全てお知らせください」という問いに対する「親しみを持てた」という回答において、出願すると決めた学校と出願しないと決めた学校とで約10%の差があった。
――では、オープンキャンパスで出会った教職員に対して、「親しみやすい」と感じたことはありますか?またその場合、なぜそう思ったかも教えてください。
Mさん:親しみやすいと感じたことはあります。私は、堅い印象のあるスーツではなくてラフな服装の教職員に親しみを感じました。ファッション系の学校だからということもあり、あまりかっちりした服装の先生が少なかったのかもしれません。あとは、「質問はありますか?」と細かく聞いてもらえたことも、親しみやすさにつながったと思います。わからないことがないかを聞いてくれる姿勢が嬉しかったです。
Tさん:私は顔から感情を受け取るタイプなので、話す相手の表情や視線で親しみやすさを感じたことがあります。また、挨拶をしてくれるかどうかも気にしていました。
Yさん:「模擬授業」で生徒が意見を発表する時に、共感を示してくれたり、周囲にも共感を求めてくれたりすると親しみを感じました。ほかにも、発表の際の緊張をほぐしてくれたりすると、学生との距離の近さを実感します。
高校生の知りたいことの解消には誠実に向き合うことが必要
(質問)イベントに参加することで、事前に知りたかったことを解消できましたか?
「イベントに参加することで、事前に知りたかったことを解消できましたか?」という問いに対する「全て解消できた」という回答において、出願すると決めた学校と出願しないと決めた学校とで約10%の差があった。
――オープンキャンパスなどのイベントに参加することで、事前に知りたかったことを全て知ることはできましたか?
Yさん:知りたかったことが聞けなかったことは何度かあります。私の志望する学部には保育系のコースが2つあり、どちらに入ったら良いのかを迷っていたため、実際に学んでいる在学生から話を聞きたいと思っていました。ですが、説明会にその学部の在学生があまり参加していなくて、私が聞きたい対象となる相手がいませんでした。ほかにも、質問ができる時間が足りなくて聞けなかったこともあります。知りたかったことは全て聞いて解消したかったので、後日、またオープンキャンパスに参加しました。
Tさん:私の場合、知りたかったことが解消できなかった大学には、結局出願しないことにしました。志望する学部で化学基礎や生物基礎が受験科目になっていたのですが、私は高校で対象となる授業を受けていなかったため、どうすればいいのかを知りたいと思っていました。けれど、ある大学では学部の先生や学生に質問をした時に、適切な答えが返ってこず、その気はなかったかもしれませんが、歓迎されていない雰囲気を感じてしまいました。今の第一志望の大学では、履修をしていなくても受けられる受験方法や勉強の仕方など、いろいろな提案をしてくれましたし、親身になって相談に乗ってくれたことが嬉しかったです。私は福島県からの参加で、頻繁にオープンキャンパスに参加できるわけではないので、参加できたタイミングで知りたいことはしっかり解消できるといいなと思います。
Mさん:私は志望していた大学の学部の選択に迷っていました。オープンキャンパスに参加する前にもいろいろと調べてみたのですが、ファッション関係の2つの学部のうち、衣装デザイナーを目指すにはどちらの学部が良いのかはわからなかったため、それぞれの学部の先生や学生にも話を聞きました。なので、結果的に知りたかったことは全て解消できました。
一人ひとりのニーズによって、「刺さる」イベント告知は異なる
(質問)来場型で参加した直近のオープンキャンパス・学校見学会などのイベントについて、イベント告知(チラシや広告)において満足度が上がったポイントがあれば全てお知らせください。
イベント告知(チラシや広告)についての設問では、満足度が上がったポイントで「自分にぴったりのイベントだと思った」という項目に、出願すると決めた大学と出願しないと決めた大学で差が出た。
――オープンキャンパスの告知について、出願すると決めた大学はやはり印象が良かったのでしょうか?具体的にはどんな印象を持ちましたか?
Yさん:私は模擬授業の内容に興味を惹かれました。今までほかの大学でもいくつか模擬授業に参加した経験があるのですが、出願すると決めた大学は「赤ちゃんの人形を使ったおむつ替え実習」をやると知って、それまでやったことがなかったので、やってみたいと思い申し込みをしました。その告知を知ったのは、家に届くDMです。
Tさん:私は先にお話ししたように、自分が志望する学部の受験に授業を履修していない科目があるために、どうしたらいいかという点が一番知りたかったことでした。そのため、「学部の先生や学生に直接質問ができる」という告知内容が、自分にぴったりだと感じました。
告知を知った媒体は、パンフレットに入っているチラシのほか、志望大学のLINE公式アカウントからの通知です。
――告知のデザイン面で、良いと思ったことや良くないと思ったことはありますか?
Tさん:内容がわかりやすいデザインがいいと思いました。自分が知りたいことがわかるのかどうか、すぐに判断できるといいです。ですが、私は基本的には内容を重視しているので、デザインそのものはそこまで気にしていません。
Yさん:私は、写真があると当日にどんなことができるのかイメージしやすく、行きたい気持ちが高まりました。逆に写真がないと、ワクワクしませんでした。ただ、いろいろな大学を見ておきたいと思っていたので、告知に写真があまり載っていない大学のオープンキャンパスにも一応行きました。
Mさん:私はある程度志望校が決まっていて、オープンキャンパスには参加するつもりだったため、まず参加したいイベントの日付がぱっと目に入るデザインがありがたかったです。
大学生活のイメージには、在学生の声や実際の学校生活の見学が大きく影響
(質問)参加したイベントについて、参加後の各項目における自分をイメージできたかどうかをお知らせください。
アンケートを通して、オープンキャンパスは、大学生活をイメージできたかどうかの差によって大きく志望度に影響するという結果が出た。
――オープンキャンパスに参加した際に、どのようなプログラムが大学生活のイメージにつながりましたか?
Yさん:在学生にインタビューできる時間があり、一日をどのように過ごしているのか聞けたことが大学生活のイメージにつながりました。また、私が出願した大学では、模擬授業や学食体験があったので、朝家を出て大学に行き、模擬授業を受け、学食で昼食を食べるといった大学での一日の流れを自分で想定することができて、それはとても良かったです。
Tさん:私は校内見学やキャンパスツアーで、学生が実際に大学生活を送っている様子を見たことで、自分がそこで学ぶイメージが具体的になりました。誰もいない教室ではなく、学生がそこで授業を受けている様子を見ることができたり、部活を楽しんでいる様子を見たりして、ワクワクしましたし、自分に合っていると感じることができました。イメージできない例としては、キャンパスツアーで学内を巡っても、使っていない暗い教室の前を通り、廊下から扉の小さい窓をのぞいて室内を見るだけだったものです。ちらっと見るだけでは何かよくわからないというのが本音です。
Tさん:具体的なカリキュラムの説明や、通っている学生から大学のカリキュラム以外の、バイトやサークル活動などの話を聞けると、自分の学校生活がイメージできました。朝から夜までの一日のスケジュールの説明は、自分に当てはめてイメージしやすいと思います。
~ 座談会を終えて ~
高校生のニーズに合わせたきめ細かなオープンキャンパス運営が、志望者数確保につながる
今回の調査と座談会では、高校生がオープンキャンパスに参加し、出願すると決めるかどうかの点については、紙一重の差であることがわかりました。調査結果を見ても、出願する・しないを分ける要素は、回答率の差が10%、大きくても20%にとどまっています。(本原稿では触れられていないが、調査結果ページを参照されたい。)しかし、わずかな差に対してどこまで突き詰めたオープンキャンパス運営ができるかが学校にとっては大きな差につながると感じました。
座談会では、調査結果における差について深掘りをしたところ、聞こえてきたのは、さまざまな細かいエピソードでした。たとえば、キャンパスツアー1つとっても、「多人数で回ると後ろの方まで話が聞こえない」「教室を見学して回るといっても、廊下から扉の小さな窓を通して見るだけではわからない」といった声です。実際に高校生がオープンキャンパスから受け取る印象の差は、現地に足を運んだからこそわかるそうした細かな点が響いてくるのだと思います。また、教職員や在学生が参加者からの質問に対して丁寧に的確に答えているかは、印象の良し悪しに影響を与えていることがわかりました。そういった細部を突き詰めることや改善を繰り返すことが、より良いオープンキャンパス運営、ひいては志願者数の確保につながっていくのではないでしょうか。
(研究員 青木 湧作)