進路選択の際にどんなことを重要視するかは、高校生一人ひとりの持つ背景や事情によって異なる。今回は、2025年3月に行った「高校生の進路意識と進路選択に関するアンケート調査」 (2025年3月卒業予定の高校3年生(マイナビ進学会員登録者)のうち、3,013名を対象にWEBアンケートにて実施)をもとに、アンケート回答者の大学生(回答時高校生)2名に話を聞き、それぞれの進路選択の軸を探った。
(本記事中のグラフは前述の調査よりインタビュー用にアレンジしたものを掲載)
▼参加者
Sさん(女子・大1)
首都圏の大学の国際教養学科1年生 。一般選抜で合格。外国語を学ぶのが好きで、留学にも興味を持っている。
Tさん(男子・大1)
首都圏の大学の建築学科1年生。総合型選抜(AO入試)利用。高校時代から、将来は建築系の仕事に就きたいと考えていた。
「学べる内容」を重視する人が多数。教員の専門性や仕事に活かせるかどうかも影響
―「学べる内容」のうち、あなたが重視した内容は何ですか。

本記事では、アンケート回答者の中から、大学に進学予定の人の回答を抽出。志望校選びの際に重視するポイントについて聞いたところ、大学進学者の多くが 「学べる内容」と回答。そこからより具体的に「学べる内容」のうち、どのような項目を重視したかを聞くと、「学びの面白さ」「学びの幅広さ」「仕事で活かせる内容かどうか」などが上位となった。
――志望校を選ぶ際にどのようなことを重視されましたか?
Tさん:行きたい学科は建築学科に決めていたので、まずは学科を重視しました。建築学科を志望した理由は、身近に建築関係の仕事をしている人がいたため、そこで学べる内容に親しみがあり、自分の将来の仕事としても興味を持ったからです。
Sさん:私はいろいろなことを幅広く学びたいという思いがあり、特定の分野に絞った専門性の高い学部よりは、教養系の授業が充実しているところや、複数のコースから学びたいことを選択できるところがいいなと考えていました。実際に入学したのは国際教養学部です。
―「学べる内容」については重視されましたか?重視された場合には特にどのような点に注目されましたか?
Tさん:このアンケートの回答項目で言えば「教員の著名さ」「教員の専門性の高さ」ですね。進学先には実際に建築家として活躍している教授がいたので、その教授の研究内容や作品なども見た上で、この教授のもとで学びたいと考えて選びました。
―Tさんは比較的専門性の高い学科を選ばれましたが、「学びの面白さ」や「学びの幅広さ」は重視しましたか?
Tさん:建築の仕事をしたいと決めてからは、学びたいことが明確だったので、幅広さはあまり気にしていませんでした。ゲームが好きなこともあり、志望校検討の当初は情報学関係の学部に進んでゲーム開発者になる道と、建築学系の学部に進んで建築の仕事をする道で迷っていました。けれど、身近な建築の仕事をしている人にも話を聞き、より魅力を感じた建築学科を選びました。
―「学べる内容」以外に重視された項目はありますか?
Sさん:私は、先ほどお話ししたように「学べる内容」より「学びの幅広さ」を重視していました。もともとは法律に興味があったのですが、まだ必ずしも法律の仕事をすると決めているわけではなかったので、受験の段階であまり絞ってしまうよりも、いろんな学問を知ってから将来の仕事を決めても遅くないと考えたんです。
それから、「学びの面白さ」にも魅力を感じました。オンラインで開催されたオープンキャンパスに参加したのですが、在学生の方の雰囲気から充実した学びができているような印象を受けました。また、私は英語が得意なので、外国語のカリキュラムが充実していてさまざまな言語に触れられることや、キャンパスの周囲の環境が海外の方と触れ合う機会が多いことなども選択のポイントになりました。ここなら外国語をより面白く、深く学べるのではないかと。
―志望校選びでは、就職活動に有利かどうかといった点もポイントの一つになると思いますが、お二人は大学選びにおいてその点は意識しましたか?
Sさん:就職活動についてはあまり深く考えていなかったです。ただ、私は地元から離れた大学に進学したのですが、全国的に見てもそれなりにネームバリューのある大学でしたし、卒業生がいろいろなところで働いているという実績のデータもあったので、就職活動も大丈夫だろうという意識はうっすらと持っていました。
Tさん:高校の文理選択の際には、理系は就職に強いというイメージがあり、理系に進みましたが、大学選びの段階では就職率や実績などはそこまで気にしていなかったと思います。進路について真剣に考えるようになった時、所属している地元のスポーツチームの社会人の方々から、「大学では学びたいことを学ぶのが将来のためにもいい」というアドバイスをもらい、考えが変わりました。社会人という人生の先輩かつ、よく知っている身近な大人からの言葉で、自分でも納得できたことが大きいです。
試験科目などの選抜方式は進路選択にどのような影響を与えるのか
(質問)進学先について、今のあなたの印象を教えてください。入試内容は自分に合っていましたか。

進学先の入試内容は自分に合っていたかという質問に対して、「とてもそう思う」と回答した人は36.3%、「ややそう思う」と回答した人は36.7%と、入試内容が受験者の適性と合うか、しっかり検討されていることが分かった。
―受験した選抜方法は自分に合っていたと思いましたか?
Sさん:私は一般選抜だったのですが、数学が苦手だったので、入試科目に数学があるかどうかは重要でした。
入学した大学は、数学なしでも受けられる入試方式があったので、ありがたかったです。
逆に、行きたいと思っていたけれど、数学がネックになって受験を諦めた大学もあります。
そもそも私の場合は、自分の学力で無理なく行ける範囲の中で、できるだけレベルが高いところを目指すことが大前提でした。そのため、現実的に合格が難しいと思ったところは、選択肢から外しました。
Tさん:僕はAO入試で合格しましたが、第一志望への想いが強かったので、AO入試で受からなければ、同じ大学を一般選抜で受験しようと考えていました。そのため、一般選抜の勉強と並行して準備する必要があったのですが、AO入試の科目が面接とプレゼンだけだったので、比較的負担が少なかったことは良かったです。仮にAO入試でもっと苦手な科目があったとしても、頑張って受験していたとは思いますが、結果的に自分の受験プランに合っていました。
「成長」への期待は進路先選択の重要な要素になると同時に、入学後の充実感につながる
(質問)進学先について、今のあなたの印象を教えてください。自分が成長できそうだと感じましたか。

進学先の印象について、自分が成長できそうだと感じている人が半数以上であり、進学先を決定する上で、受験者自身の成長という観点が必要であることがわかった。
―進学先についての今の印象はいかがですか?
Sさん:高校までの自分の視野が狭かったと感じています。自分の所属する狭いコミュニティを社会の全体だと思っていましたが、大学で勉強をして教養を身につけたり、海外の国々ついて知ったりすることで視野が広がりました。もともと学びたいと思っていた法律のほかにも心理学などたくさんのことを学べるのが嬉しいです。卒業後は大学院に進んでもっと専門的な研究もしていきたいと思っています。
Tさん:僕の大学では、1、2年生の間は基礎固めが中心なので、建築について専門的に学べるのは3年生以降になります。けれど、現場経験のある先生が多いので、仕事の話を聞くことができるのは楽しいです。また、建築専門の学生サークルに入ったので、仲間同士で勉強できる環境があるのも良かったです。こうしたサークルの情報なども入学前に知っていたら、志望度がもっと上がっていたと思います。
―志望校を選ぶ上で、大学に関する情報はどのようにして入手しましたか?また、どんな情報が特に影響したと思いますか?
Sさん:進学した大学について最初に知ったのは、パンフレットです。その後、オンラインでのオープンキャンパスに参加して在学生の雰囲気なども感じることができ、志望度が高まっていきました。ただ、やはり最初に目にしたパンフレットのインパクトは大きかったと思います。特に強く興味を惹かれたのは留学制度です。パンフレットを通じて実際に先輩たちがいろいろな国で学んでいることがわかり、留学制度が充実しているんだなという印象を受けました。
入学後の授業や将来の就職活動等への不安に比べ、「受験に合格できるか」という不安が大きい
(質問)あなたが受験校を選んだ時の不安や悩みについて、あてはまるものを全て選んでください。

「受験に合格できるか」「授業についていけるか」「自分が学びたい内容が学べるか」について受験校を選択の際には不安を感じている。
―SさんとTさんは受検校を選んだ時の不安や悩みはありましたか?
Sさん:私は「受験に合格できるか」ということでいっぱいで、それ以外の不安や悩みはあまり頭にありませんでした。将来については、大学に入って幅広く勉強をしながら考えようと思っていたので、受験時にはそこまで心配はしていませんでした。
Tさん:僕も受験前は、合格できるかどうかが一番の不安でした。ただ入試合格後、AO入試では科目入試がなかったので、「授業についていけるか」という不安を抱くようになり、少しでも追いつこうと自分で勉強をしていました。でも進学した大学では、高校レベルの復習ができる授業が用意されていて、どの選抜方式で入学しても2年生までには必要な基礎学力が身に付くカリキュラムになっていたので、安心しました。
~ 座談会を終えて ~
高校生一人ひとりに最適な情報発信が、今後の志願者獲得の鍵
今回の調査と座談会を終えて、高校生はさまざまな要素を総合的に捉えて、志望校を選択していることがわかりました。
調査では志望校選びにおいて特に重要視するポイントは「学べる内容」であるとの結果になりましたが、卒業後の仕事をイメージしやすい専門性が高い学びを求めている学生もいれば、逆に将来の可能性を広げるために幅広い学びを志望する学生もおり、受験生の志望動機や受験への向き合い方や将来へのビジョン等によって、志望校に期待するポイントは大きく異なることも明らかになりました。
高校生の希望はかなり多様化しているため、今後大学が志願者を獲得するためには、学生一人ひとりの個別のニーズに合わせて、より多角的に情報発信を心がける必要があるでしょう。
(マイナビ総合研究所 研究員 青木湧作・川野優実)