マイナビ進学総合研究所では、進路決定に関する高校生の実態活動を調査し、その研究成果を発信している。昨今、女子大学の定員割れや募集停止、共学化などのニュースが相次いでいる。偏ったイメージを持たれることも少なくない女子大学。現役の女子高生は女子大をどう捉えているのか。イメージや偏見はあるのか。女子大志願者・非志願者どちらの声も拾うべく、座談会を開催した。
▼参加者
▽Mさん
公立高校(共学)・高3 第一志望:私立女子大学(予定入試形式:総合型選抜)
ソフトテニス部の引退後、私大一本に絞って受験勉強中。この秋、総合型選抜を控えているが、合格しても入学金や授業料が免除となるスカラシップをめざし、一般入試も挑戦する予定。大学入学後もソフトテニス部を続けるため、勉強のかたわら、筋トレや走り込みなど体力維持にも取り組んでいる。
▽Iさん
私立女子高校・高3 第一志望:私立大学(共学)(予定入試形式:指定校推薦)
幼少期をインドで過ごした経験から国際政治に興味を持つ。法学部志望。現在は、中高一貫の女子校に通う。秋入試で決めたいと、指定校推薦の第一志望のほか、第二志望以下では総合型選抜で3大学を受験予定。現在(8月)は総合型選抜の入試科目、英語2,000文字の課題小論文に取り組んでいる。
▽Oさん
公立高校(共学)・高2 第一志望:国公立の女子大学(予定入試形式:一般選抜)
国公立大合格を目標に、高2ながら既に受験勉強を開始。夏休み期間中にオープンキャンパス(OC)にも足を運び、志望度がさらに高まる。同じ志望大学の理系学部をめざす友人から苦手な数学を、自身は文系科目を教え合い受験勉強に励んでいる。大学進学後は、1年の長期留学を実現させることが目標。
志望校選びは学べる内容を重視。第一志望の決め手はOC訪問での体験
――どのように志望大学を選び、何を重視していましたか?
Mさん:高校で進路ガイダンスの授業もあったので、高1から気になる大学の資料請求や大学Webサイトを見るなどして、大学選びを始めていました。当初は女子大をめざしていたわけではなく、学びやカリキュラム内容、資格取得、就職率など総合的に調べていくうちに、自然と女子大に絞られていきました。高3の夏まで部活があり学校見学をほとんどしたことがなかったのですが、この夏休み中に5つの大学のOC訪問やクラブ見学を決行。教員や学生の雰囲気が良く親しみを感じた甲南女子大学の受験一本に決めました。人間科学部で小学校教員をめざします。
Iさん:第一志望は慶應義塾大学法学部。総合型選抜で早稲田大学国際教養学部、上智大学国際教養学部、立教大学法学部の3校も受験する予定です。私は高1の頃からオンラインOCや個人見学を行い、高2は留学のため学校見学はできませんでしたが、高3になりOC訪問や学園祭を含め、各志望大学には2回ずつ足を運びました。もともと国際政治に興味があったので学びの分野は政治を学べる法学系と決めていました。また、入試形式は秋入試で進学先を決めたかったため、総合型選抜を選択。その志望大学のなかで、今年の指定校となった慶應義塾大学が第一志望になりました。
Oさん:第一志望は、公立大の福岡女子大学国際文理学部。福岡大学経済学部も一般選抜で受験する予定です。1年生の頃はあまり進路について考えていなかったのですが、2年生から大学調べを始め、福岡女子大学を知りました。在学中の留学を考えていたので、大学に留学プログラムがあることがポイント。なかでも福岡女子大はアジア系の留学が強く、大学や県から金銭的な補助も受けられます。学力レベルを問わず、行きたい大学への留学サポートが手厚い点も魅力でした。1年の長期留学と並行して4年で卒業できます。マイナビの進学イベントに出展していた福岡女子大学からOCの案内があり、高2の夏休みにOC訪問しました。
――女子大学志願者のMさんとOさんに向けて。第一志望の決め手は?
Mさん:大学でも勉強とクラブ活動を両立させていきたいと考えているので、進学先もソフトテニス部があることが条件。小学校教員になる夢に向けて、女子大、共学問わず、就職や資格講座についてネットを中心に調べました。学びやカリキュラム内容、自分に合ったレベルの部活や学力などから甲南女子大学一本となりました。女子大、共学どちらもOC訪問しましたが、女子大の方が雰囲気の柔らかさを感じました。甲南女子大学のOC訪問では、女子学生が主体となり、一丸となってキャンパスツアーや学部説明を行う姿を見て、自分も社会でリーダーシップを発揮できるようになるのかなと将来を描けたことが決め手となりました。
――女子大のリーダーシップの話が出ましたが、先日、フェリス女学院大学のゼミ学生によるプレゼンテーションに参加しました。「女子大の役割」がテーマでしたが、学長へのインタビューにおいても、女子大の意義は「多様性の時代に女子がリーダーシップを育む場所であること」というお話がありました。やはりその意義は大きいようですね。第一志望の決め手について、Oさんはいかがでしょうか。
Oさん:私も女子大学に絞って大学調べを行ったことはありません。ただ、女子大を志願している友人から女子学生に特化したサポートの充実さを聞く機会がよくありました。第一志望の福岡女子大学は、国際教養学科の学び・カリキュラムが決め手になりました。また、OC訪問の際も先輩方が積極的に話しかけてくださり、「それだったら次はここに行った方がいいね」とイキイキと案内されていて格好良いなと思いました。
――進路決定に影響を与えた人物は?
Mさん:進路について熱心に調べてくれた親の存在が大きかったです。一方で、進学先は自分が決めたところならどこでもいいと任せてくれていました。ほかにOC訪問のほか、甲南女子大学のクラブ見学の際には先輩が優しく丁寧にお話ししてくださったり、居場所をつくれるよう盛り上げてくださったり、先輩方の気遣いを感じ、こんな先輩たちが通う大学なら安心だと思いました。
Oさん:母親や祖父母が女子大をめざす私の背中を押してくれました。母や祖父母の知り合いの娘さん、お孫さんも女子大に通っていて良い印象があったようです。留学されている方もいて自分の夢とも重なり志望度が高まりました。私よりも成績が良く尊敬する仲の良い友人も福岡女子大学をめざしているため、教え合いながら受験勉強に励んでいます。
――Iさんは、なぜ女子大学が候補に上がらなかったのでしょうか?
Iさん:中高一貫校で6年間女子校にいるので、社会に出る前に、できれば共学を経験したいという思いがありました。また、父の仕事の関係でインドに住んでいた頃、日本では考えられないような政権交代を経験し、政治に興味を持ちました。日本の大学では法学部で政治を勉強することが多いので志願 先は法学系です。学びたい内容をつきつめると、志望大学がすべて共学になっただけのこと。行きたい学部が女子大にあれば選択肢に入っていたと思います。
――進路決定に影響を与えた人物は?
Iさん:早稲田大学に通う兄の話を参考に、第二志望群の早稲田大学では国際教養学部を志望しています。早稲田大学のOC訪問も行い、大学の雰囲気もとても好きでした。幅広く学べる国際教養学部が私に合っていると感じています。
強みは、女性のリーダーシップ。OC訪問で体感した女子大の価値
――女子大に対するイメージはありますか?進路検討の過程でその変化はありましたか?
Mさん:以前は漠然と、女子大はお嬢様が通う大学、おしゃれな人が通う大学というイメージが強かったです。実際に女子大学にOC訪問してみると、おしゃれな先輩が多くイメージ通りでしたが、共学に比べて小規模の大学が多く、学生と先生の距離の近さを感じました。
Oさん:女子大の学生は、自分の意見をしっかり持ちリーダーシップを取るイメージがあります。またOC訪問で感じたのは、学生同士の仲の良さ。今は共学校に通っていますが、それほど先輩とは親しくありません。学年関係なくつながりが深いところも女子大の魅力だと思いました。
Iさん:Mさんと同意見ですが、女子大はお嬢様の印象が強い。ほかにも就職が強いイメージがあります。また、共学校は男子がリーダーシップを取ることが多いと思いますが、女子校の場合、必然的に女子が前に立つので良い環境だと思います。私はもともと人見知りでしたが、部活の副部長やクラス委員を務めました。女子校だったからこそできたことだと思います。
――女子大に対する偏ったイメージはありますか?
Mさん:私自身は悪いイメージを持っていませんが、女子大を志望候補から外した友人に理由を聞いたところ、男子との交流が少ないことを不安材料に挙げていました。女子だけの世界が怖いと言っている人も。周りの女子も女子大に対して好印象を持っている人は少ない。おそらくネットやテレビでの意見に影響され偏見だけで話しているので、実際に女子大に足を運んでみてほしいなと思います。
Iさん:共学の大学よりはおとなしい?という勝手なイメージはありますが、私が在籍する女子校は活発で賑やか。ただ、男子との交流はほぼないので、女子校に在籍している人にとっては、仮に女子大に進むとしても交流の少なさは気になるのではないでしょうか。また、女子大学に行くことで“少数派”になることも、気になることの一つです。「共学に通っているんだ」と言われることは少ないと思いますが、「女子校なんだ」と特別視されることは今でもあるので。
Oさん:女子大学は学部学科が少なく、文系が強く理系が弱いというイメージがあります。他大との交流も少なく、友だちの輪が狭くなるのではという懸念は女子大をめざす今も思っています。
キャリアを支えるきめ細かなサポート。温かさ、つながり、コミュニケーションがキーワード
――改めて女子大のメリットは何だと思いますか?
Iさん:女子大は小規模校が多いので、その分、教員とのつながりも強いだろうし、就職サポートが手厚いと思います。
Oさん:男子の目を気にしないで発言ができる点や、グループ活動で意見を交わしやすい点。意見の相違があっても自分の考えを言いやすく、自由闊達なコミュニケーションが実現できるのではと期待しています。
Mさん:女子大学をめざす人は、やりたいことがしっかりと決まっている人が多い印象です。真剣な人が多い分、自分のことに集中できるし、一緒に頑張れそう。OC訪問した際の周りの高校生もこの学部があるから見学に来ているという人が多く、真剣に学びに取り組む姿勢を感じました。
――なりたい職業はありますか?女子大卒業後のキャリアに関するイメージは?
Mさん:小学校教員です。女子大の方が大学卒業後のサポートも手厚い印象です。大学の学びと社会のギャップからの不安や悩みを定期的に相談できる会など、何かあったら大学に戻って来ていいよというアットホームな雰囲気があります。
Oさん:今は具体的な職業イメージはなく、在学中に見つけたいと考えています。韓国への長期留学を通じて韓国語を話せるようになりたいと思っていますが、将来、仕事として使いたいかというとそうでもなく、まず学んでみたい気持ちが優先しています。志望大学には1年次に幅広く専門分野を学び2年次からコースを選べる柔軟なカリキュラムがあり、好きなことを学び続けられる点に惹かれています。
Iさん:アナウンサーをめざしている友人は女子大の方が有利と話していて、女子大にひもづく職業があるのかなと感じました。
女子大か共学かよりも、大学で何をしたいかが重要
――ご自身に加え、周りの女子大志願の高校生も想像して答えてほしいのですが、どのパターンが一番多そうですか?
① 選択肢に女子大、共学どちらもあったけど、学びや施設、雰囲気などいろいろ調べて選んだら女子大だった。
② いろいろ調べたけど候補が女子大しかなかった。例)国際ジェンダー論を学べる大学を調べたら女子大だった
③ なんでもいいから女子大一択。女子大しか調べなかった。
Mさん:最も多いのは1番、少ないのは2番だと思います。
Oさん:最多が1番、最少3番でしょうか。
Iさん:世間一般のイメージなら多い順に1番、2番、3番だと思います。
――なるほど。1番が多いのは確かそうですね。最後に、女子大学に求めることは?
Mさん:自分の学びたい学部学科で大学選びをしたので、女子大だからといって特別求めるものはありません。ネットや個別相談など大学を知るチャンスはたくさんあります。実際に大学の先生や学生と話す機会をいただけたので志望校選びで困ることはありませんでした。入学後もOCで受けた印象と同じであれば良いです。
Oさん:他大学と交流がないというイメージを払拭するためにも共学との交流をつくる場を設けてほしいなと思います。実際はあるのかもしれませんが、そうであればもっと伝えてほしい。またサークルや学び以外でも、同じ目的を探究する時間がほしい。いま高校でSDGs関連を調べていますが、そうした未来のことを他大生とも探究したい。
Iさん:私は共学を志望していますが、女子大に学びの幅広さがあれば、選択肢のひとつになったと思います。また明快な就職率の比較があれば、女子大と共学の違いもわかりやすくなるのではないでしょうか。そのほか、自分でパンフレット等の資料を研究すれば理解できるため、何よりも女子大に対して偏見を抱かずフラットに物事を見る視野の広さが大事だと思います。
※各大学の最新の情報は、必ず各大学の公式情報をお確かめください。
~ 座談会を終えて ~
多様性社会で輝く女子のリーダーシップ。外部とのつながり、他大学との交流機会を明確に
今回の座談会を通じて、女子大を志望する理由や経緯を垣間見ることができた。世間では女子大の定員割れ、募集停止、共学化などのニュースが取り沙汰されることもある。そのたび、女子大に対する偏ったイメージなどが併せて記述されるのを目にする。しかし、果たして高校生はどのように女子大学を志望しているのか。今回の座談会では、「女子大か共学か」よりも「学びたいことを学べる学校はどこか」が先に立つ、という傾向が伺えた。候補に女子大が含まれたのであれば、そこで初めて女子大特有のメリットやデメリットが勘案される。当然のことながら女子大学にとっては、第一に高校生の検討「候補」に入ることが重要だ。その意味では「学べる内容」「目指せる職業」の幅を拡げる改革は有効な手段かもしれない。加えて女子大学の強み、とりわけ教職員との距離の近さやサポート体制、リーダーシップを育む教育環境などを打ち出せば、高校生にとっては魅力に映るだろう。一方、少ないながらも偏ったイメージを持たれていることは確かだった。それらを払拭するためにも、学生同士の雰囲気の良さや、他大学(特に共学)との交流があるのであれば、より積極的に発信すべきだろう。
(研究員 青木 湧作)