大学、短期大学、専門学校から高校生宛に届くダイレクトメール(DM)。その内容は、オープンキャンパス(OC)の告知や新学部学科の設立、新たな入試制度、奨学金制度のお知らせなどさまざま。サイズ、ボリューム、形状や加工で差をつけるDMも。「DM等に関する高校生の意識調査」(2023年10月実施)の結果と照らし合わせながら、現役高校生3人に普段受け取るDMをどのように感じるかについて話を聞いた。
※本文中のグラフは全て、大学・短大進学希望者の回答集計。また、「DM等に関する高校生の意識調査」(2023年10月実施)全文資料からの出典。
▼参加者
▽Iさん(女子・高2)
第一志望:看護専門学校
看護師に憧れ看護専門学校が第一志望だが、現在の商業高校で取得した簿記資格やビジネス系の知識を活かした大学進学も視野に入れている。DMは【自分一人でしか見ない】派。
▽Nさん(男子・高2)
第一志望:大学薬学部
もともと研究が好きで、人を助ける職業に就きたいという思いから大学薬学部の進学を志している。DMは【母親と見る】派。
▽Sさん(女子・高2)
第一志望:大学法学部
中学校の公民の授業で「法テラス」を知り感銘を受けたことから、将来の夢は国選弁護人になること。法律に強い大学探しを始めている。DMは【母親と読む派】。
【志望校・志望校群の学校】からのDM。
志望校からのDMならではの優位性はあるのか?
まずは、【志望校・志望校群の学校】からのDMについての質問です。
(質問)届いたDMをしっかりと読もうと思うのはどんな時ですか。
――アンケート結果1位の「知っている学校から届いたと分かった時」は納得ですが、2位の「役立つ情報が載っていそうだと感じた時」が気になります。みなさんにとって“役立つ”内容とは何でしょうか?
Nさん:「OC案内」です。OC日程やプログラム内容はチェックしています。加えて、DMにはあまり載っていませんが、実際に志望大学に通う先輩の声があるといいですね。薬剤師になるには国家資格が必須のため、その合格率も気になります。不合格率や留年率などの詳しい情報もほしい。
Iさん:私は学校の雰囲気も重視しているので、DMに大きく「キャンパス外観の写真」が載っているといいなと思います。
Sさん:法科大学院への「進学率」や卒業生の「進路情報」は、その大学に入学した後の自分をイメージする手掛かりになります。
――志望校なので学校Webサイト(HP)やパンフレット、OC訪問から既に合格率や就職先は確認されていると思うのですが、DMでもそうした実績や進路情報がほしいということですか?
Nさん:そうですね。やはりDMで役立つ情報をアピールしてもらった方が出願の後押しになりますし、DMを届けてくれるのは嬉しいです。
Iさん:DMでわかりやすく情報が明記されていると助かります。
Sさん:パッと一目でわかる大学の特色はすべて“役立つ”情報になります。
――2位と大きく引き離しますが、志望校からのDMでも「特典がある時」が3番目と上位です。この結果はみなさんどう思われますか?
Iさん:特典は物品も魅力的ですが、専門学校の総合型選抜(AO入試)では複数回のOC訪問が条件になることがあります。一時期狙っていた専門学校からDMが届いたときはイベント訪問の特典や、エントリー条件もチェックしていました。
Sさん:志望校以外の特典は惹かれませんが、逆に志望校であれば特典はチェックします。「図書カード」が使いやすくていいですね。
(質問)あなた宛てに届いたDMは誰と読みますか。
――複数回答の質問ですが、「母親」と「自分一人でしか見ない」に票が集まりました。Sさんも「母親と読む」にチェックいただいていますが、その理由は何ですか?
Sさん:親に支えられてこその大学進学というのが根底にあるため、独りよがりの視点にならないよう、母親の意見も聞いてしっかり取り入れたいと思っているからです。客観的な意見がほしい。親にも進学先を納得してもらいたい。一緒に読んでいて「ここ、いいんじゃない?」というアドバイスが参考になったりもします。私からも「DMにこう書いてあるけど、どう思う?」と聞いたりします。立地や交通の便、一人暮らしの周辺エリア情報など、大学生活に関わることを相談することが多いですね。
Nさん:私は自分一人で読みます。DMを受け取るのは母親ですが内容について何も言われません。志望調査書などの書類関係やOC訪問の申し込みについて話題にすることはありますが、特にDMの中身について話したことはありません。
Iさん:私も自分一人でしか読みません。母親からは自分のことだから自分で決めなさいと言われています。迷ったりすることもありません。
(質問)DMでその学校についてどんな情報がわかると嬉しいですか。
――「学校全体の特色」がダントツ1位で70%。「目指せる資格」、「入試制度」と続きます。
Nさん:私も「学校全体の特色」にチェックしました。気になる大学のOCは行っていますが、正直、学校の特色は未だ十分に把握していないためDMに記載があるとうれしい。手厚いサポート体制や自習スペースなど、学習環境の良さが書かれていると安心材料になります。
Iさん:アンケート結果と同じく、私も「目指せる資格」は就職と直結しているため重要です。
Sさん:私もDMでは学べる内容より「目指せる資格」「目指せる仕事」の方が重要な情報です。学校全体の特色は、大学からの出張説明会で直接伺う機会がありました。DMでは、特色よりも実績を見ています。
(質問)DM特典がきっかけでオープンキャンパスに参加したことはありますか。
――「志望校からのDMについて」という前提ですが、4割弱の高校生が特典キッカケでOC訪問をしています。志望度が高いのであれば、DM特典の有無によらずOCに行くような気はしますが、この結果についてはいかがでしょうか。
Nさん:私もDM特典がキッカケでOC訪問したことがあります。未だその志望大学のOC日程を調べていない時にちょうどDMが届き、入試問題の特典があることを知ってOCに参加しました。
Sさん:私はDM特典がキッカケで、という経験はありません。特典で得られる情報はネットで調べたら出てくる情報がほとんどというイメージがあります。
(質問)受験の案内や入試制度の告知の場合、どんなDM特典があると嬉しいですか。
――「受験対策の動画が見れる」が全体の36.7%でした。DMを作る側としてはQRを載せれば済むので紙面効率が良いかと思いますが、皆さんのお考えはいかがでしょうか?
Iさん:受験対策の動画は、細かな解説がないイメージがあります。であれば、対面での受験対策講座に参加した方が効率的かと思います。
Sさん:通っている塾で対策動画が視聴できるので、対策動画にあまり必要性を感じません。
Nさん:対策動画は一方的で質問もできないし、受験勉強で分からないところは高校の先生や友人から教えてもらえるので、あまり魅力を感じません。
(質問)DMの紙質の良さで、その学校の印象が変わることはありますか。
――DMの紙質はスーパーのチラシのような薄いものからマットコートのような上質紙まであります。調査結果では印象が変わることは「ない」が半数以上でしたが、約半数(48.9%)の高校生が「ある」と回答しました。みなさんのご意見はどうでしょうか?
Nさん:私は気にしませんが、紙質で大学がどれだけお金を持っていそうかが見えそうな気がするので「ある」が多いのかなと思いました。
Iさん:私はインクが滲むような紙質でなければ、学校の印象が変わることはありません。
Sさん:志望校からのDMなら紙質はそれほど気になりませんが、DMはその学校を知る第一歩なので、もしペラペラの紙質だったら少し気になるかもしれません。
(同質問)DMの紙質の良さで、その学校の印象が変わることはありますか。【興味がない/知らない学校】からのDMの場合。
――(上記図)この結果は、【興味がない/知らない学校】からのDMの回答結果です。志望校からのDMと比べて、全く知らない学校からのDMの方が、紙質の影響は「ない」(59.3%)様子。興味がない学校の方が紙質に左右されないようです。
Sさん:個人的に思うことは、志望校は細かいところまでチェックするからこそ、紙質で印象も変わるように思います。逆に、興味がない学校は、紙質の良し悪しは気になりません。
――それでは、紙質が良くてモチベーションが上がったケースはありましたか?
Iさん:私はありません。紙質にコストをかけるのなら、ほかに充ててほしいかなと思います。
――デザインについてはどうでしょうか?DMのなかにはカタチや大きさ、加工で目立たせたり、温かみのある柔らかさを表現したり、逆に印象的なキャッチコピーを前面に押し出したりするものもあります。こうした工夫は学校の印象を変えますか?
Nさん:そうした工夫を凝らしたDMをあまり見たことがありませんが、初見のインパクトはあっても、それだけでその学校について深く調べたり考えることはないと思います。
Iさん:私も最初見たらスゴイ!とはなりますが、デザインが面白かったというだけで処分してしまうと思います。
Sさん:やはり中身が大事なので、印象には残るとは思いますが印象だけで志望校に格上げされることはあまりないと思います。
【オープンキャンパスに参加したことがある、興味のある学校】からの
DMについて。
――ここからは、 【オープンキャンパスに参加したことがある、興味のある学校】 からのDMについての質問と、その回答結果についてです。これまで同様に、事前の調査結果をもとにお聞きしていきます。
(質問)DMでその学校についてどんな情報がわかると嬉しいですか。
――内容も順位も割合も、志望校からのDMとほぼ同じ結果となりました。OC訪問済みという前提のため、OCである程度の情報は得ているものと思っていましたが、「学校全体の特色」にも関心が高いことがわかりました。
Nさん:1度でもOC訪問をすると多少の興味が湧いてくるので、DMでも情報があるとありがたいです。OCだけではわからなかったことや、もう少し踏み込んだ情報があると良いですね。再度、OC訪問を行う際の情報としても必要です。
Sさん:私は「学校全体の特色」と「目指せる仕事」の情報があるとありがたい。OC訪問で感じた大学の雰囲気と、その大学が求める学生像にギャップはないか?という視点で読んでいます。学校側から見た特色と自分が感じた特色を照らし合わせてみたい。結果、自分に合った大学かどうかもわかるようになると考えています。
Iさん:「学校全体の特色」と「OC日程」「OC内容」があると良いと思います。志望校に達しない、だけど興味がある程度の学校であれば、自分から情報を取りにいかないので、DMが届くのはうれしい。例えば、OC日程がスケジュールと合えば、また行ってみようかなとなります。
――また全体の44.1%の高校生が「学費」と回答しています。
Nさん:そうですね。学費が安ければ、場合によっては、志望校になる可能性も上がるように思います。
Sさん:私は、志望校の学費は調べていますが、興味がある程度の学校だと調べていません。学費については、志望校以外の学校は気にしていないので学費情報があると参考にはなります。
【興味がない、または知らない学校】からのDMについて。
――ここからは、【興味がない、または知らない学校】からのDMについての質問です。
(質問)届いたDMをしっかりと読もうと思うのはどんな時ですか。
――興味がない学校からのDMをしっかり読むのは「役立つ内容」が載っていそうだと感じた時が最も多い回答となりました。興味がない、知らない学校だとしても、自分にとって役立ちそうな情報とは何でしょうか?
Nさん:この質問は“知らない”学校という前提で回答しました。私にとって知らない学校の役立つ情報とは、その学校の「場所」「学部」「OC日程」「大学の特色」です。志望学部があり、通える圏内だったらOC訪問に行ってみようとなるかもしれません。
Iさん:私は「特典がある時」にチェックを入れました。特典内容が学費に関することであれば、DMを読むと思います。新たな学校を知るチャンスにもなると思います。
Sさん:私も知らない学校、興味がない学校だからこそ、「特典」が重要になってくると思います。ただ、魅力的な大学からのDMには既に目を通しているので、知らない学校や興味がない学校からのDMで志願することはないと思います。ただ、興味がない学校からのDMを見ることで、逆に志望校の魅力が一層わかったり、そういう意味で読ませてもらっていることはあります。
(質問)あなた宛てに届いたDMは誰と読みますか。
――志望校からのDMの場合と異なり、「自分一人でしか見ない」が最も多い結果に。一方で、興味のない学校のDMでも、約4割の高校生が母親と一緒に読んでいるようです。Iさんも志望校のDMと同様、知らない学校でも「母親と読む」とのことですが、母親とどんな会話をしますか?
Sさん:一人暮らしする際の費用や防犯面など、母親の大学を見る目線は自分と違います。進路について一緒に考えてくれる存在なので、A大学はこうだけどB大学はこうだよねという意見をもらえます。軽く読む程度になりますが、やはり母親と一緒に目を通します。
――確かに、親御さんはお金のことは気になりますよね。周辺の立地や寮の防犯面なども納得です。こうした情報は、大学HPや大学案内にも掲載されていると思いますが、DMでもほしいということですか?
Sさん:そうですね。例えば大学HPや大学案内では気づかなかった点で進路を見直すきっかけにもなるので、DMも大切な情報源です。
(質問)DM特典の内容がきっかけでオープンキャンパスに参加したことはありますか。
――みなさんもアンケート結果と同じく「ない」と回答されていますが、13.9%の「ある」の理由は想像できますか?
Nさん:以前、図書カードの特典でOC参加してみようかなと考えた大学があったので、そういう特典でOC訪問する人もいるのかなと思いました。
Sさん:学費や図書カードの特典からOCなら、それまで知らなかった大学だとしても、行くだけ行ってみようかなという場合はあると思います。
Iさん:進路分野と同じ学校の過去問の特典があれば、志望校の受験対策にもなると考えてOC訪問する人がいるのかもしれません。
~ 座談会を終えて ~
進路検討においてDMは大切な情報源の一つ。奇をてらわず丁寧かつ詳しい情報伝達を。
今回のアンケート調査では、【志望校】、【興味がある学校】、【興味がない学校】と、志望度を三段階に分けて同様の質問を投げかけました。志望度の高い学校やOC訪問をしたことのある学校の情報は、高校生は十分取得済みと想定していましたが、学校の特色や資格、就職、学費などの情報はDMでも改めて得たいと考えているようです。事実、OCではさまざまなプログラムが用意されていますが、高校生が参加しているプログラム数は平均2~3程度(※)。学校がDM施策を検討する際には、OC参加者宛てに絞ったDMだとしても、改めて概要や全体特色の説明を重ねることで、ようやく認識を強めてもらえるのかもしれません。
また、母親と一緒に見たり、興味のない学校でも一通り目を通したり、デザインや体裁よりも中身を重視したりと、高校生は想定以上にDMをしっかりと読んでいることも窺えました。紙面に限りのあるDMですが、しっかりと訴求ポイントを載せつつ、資格取得率や就職率などの数字で明快に表現することも効果的な広報戦略の施策となるでしょう。(マイナビ進学総合研究所 研究員 青木湧作)
(※)オープンキャンパス実態調査より。資料ダウンロードはコチラから。