進路選択をする高校生にとって「学校案内」は重要な情報源の1つ。今回は2024年2月に全国の高校生約1,800人を対象に行った「学校案内に関する高校生の意識調査」を基に、よりリアルな声を知るために現役高校生4人に話を聞いた。(本記事中のグラフは前述の調査資料より掲載)
▼参加者
▽Mさん(男子・高2)
現時点では私立文系への進学を考えている。文系の中では法学にやや興味を持っているが、幅広く情報をリサーチ中。
▽Hさん(女子・高3)
国公立理系志望で、地方への進学にも前向き。子どもの頃、自身で漢方の効果を実感した経験から、薬学など医療系に興味を持っている。
▽Sさん(女子・高3)
国公立大学志望。将来は法曹界を目指していて、法科大学院への進学を見据えている。ビジョンが明確なため、大学について知りたい情報も具体的。
▽Kさん(女子・高2)
医療系に興味を持ちながら、子どもの頃から海外の文化に興味をもっているため国際系分野の情報もチェックしている。
目的外のページに目を留める理由は、ポップなデザインや写真、目新しい情報など
(質問)(学校案内を読む目的別に)その目的の場合、学校案内をどのように読んでいますか?
学校案内を読む目的を質問したところ、多くの高校生が「様々な学校を幅広く知る目的」、「ある程度絞り込んだ志望校群を比較する目的」と回答。この結果を踏まえ、回答群別に、高校生がどのように学校案内を読んでいるかを質問した。幅広く知るためや、比較するために読む高校生からは、「最初から順にパラパラ読む」「気になる箇所だけ読む」という回答が多く見られた。
――この調査結果を基に、まずは皆さんがどのように学校案内を読んでいるのかを教えてください。
Mさん:自分の行きたい学部学科の情報を中心に読んでいます。そこで何が知りたいかといえば、どんな先生がいるのか、具体的にどんな内容を学べるのかなど。学生の声として紹介されていると特に興味を持ちます。事前にそうした情報を収集しておくと、オープンキャンパスで先生や学生の方にお話を聞く時に質問のきっかけにもなるので、しっかりと読むようにしています。
Hさん:学部学科のページは、興味を持っている分野であれば読みます。ほかに、留学制度や奨学金、学生の一日のスケジュールといったポイントは興味があるので、パラパラ見ていく中でそうしたページが目に留まれば読みます。アドミッションポリシーなどは、私は正直なところ、あまり読まないですね。知りたい情報に絞っています。
Sさん:私は推薦入試も視野に入れているので、志望校として検討している大学であれば、アドミッションポリシーなども読むようにしています。入試関連情報なども、詳細にチェックしています。
Kさん:私はまず目次を見て知りたい情報がどこにあるかを確認してから、前から順にパラパラとみていきます。特に気になる情報は留学制度などですね。また、卒業生の就職先としてどんなところがあるのかを知りたいので、その辺りもチェックします。
――皆さんそれぞれ興味や目的のあるページはもちろん注目されていると思いますが、そこだけを見るのではなく、やはりパラパラと見ていくということですね。では、もし、もともと見るつもりのなかったページに目を留めることがあるなら、それはどんなページでしょうか?今から実際にある大学の学校案内を見てもらいますので、気になったところを教えてください。(とある私立大のデジタルパンフレットを画面で共有し、ページをめくっていった。)
Mさん:僕は知らない言葉が出てくると、その意味を知りたくて読むことがあります。たとえば、このページでは「リベラルアーツ」という単語が気になりました。学部学科名でも、あまり聞きなじみのない名称で、パッと何を学ぶのかわからない時は、内容を読みたくなります。
Hさん:デザインがポップだと、内容に関係なく目を留めることが多いですね。キーワードや写真よりも、見やすくて楽しそうなデザインだと、つい読んでしまいます。それと、前後のページと比べて、デザインの雰囲気が急に変わったりすると興味を持ちやすいです。たとえば、今見ている学校案内は割とかたい説明が続きますが、急に現れたこのポップなページは目に留まりました。(※学部別のトピックスを見開きでチェキ風に紹介しているページだった。)
Kさん:私も、読むつもりのなかったページでも、デザインや写真が気になったら見るようにしています。特に、写真が多いページはイメージを掴みやすいので、興味を惹かれます。
Sさん:私は興味のあるページ以外は流し読みしがちですが、見出しが大きかったり、数字が大きく載っていたり、大々的にアピールされている情報があると気になります。この学校案内では、就職率などの数字が大きく書かれていたので、目に留まりました。とは言っても、既に知っている情報だと流してしまうので、たとえば新学部設立といった、目新しい情報であれば読みます。
学校案内を読むことで志望順位が明確になる?その決め手はどこにあるのか
(質問)複数の志望校の学校案内を読み比べて、志望順位が自分の中で明確になったことはありますか?
「複数の志望校の学校案内を読み比べて、志望順位が明確になったことがあるか?」という問いに、64.7%もの高校生が「ある」と答えた。
――調査では、学校案内を読み比べることで志望順位が明確になるという結果が出ています。皆さんはどんな点を読み比べているのか教えてください。
Hさん:私の場合は、同じ学部であれば、細かいカリキュラムの違いは今の自分では判断がつかないので、就職先や取得できる資格の多さが判断基準になります。もし就職先や取得資格も似ている場合は、学校案内の読みやすさも1つのポイントになっているかもしれません。単純に、読みやすくまとめられていると印象が良く感じますし、読みやすい、わかりやすい学校案内であれば、入学後の大学生活が明確にイメージしやすいと思います。ほかに重視するのは、アクセスの良さや寮があること、奨学金制度が整っていることなどです。個人的には、校風などは、どの大学も「良いこと」ばかり書いてあるのではないかと思ってしまうので、そういった、わかりやすくて確実な利点が書かれていると参考になります。
Mさん:僕の場合は学校案内を読むだけで志望順位が変化することはあまりないですが、たとえばAI技術を活用した学科や科目の設置がある、といった情報が書かれていると、その大学への注目度が高まることがあります。常に新しいものを取り入れていっている大学は好感度が高いですね。
(質問)前の質問で「ある」と答えた方にお聞きします。学校案内の中身を読んで、志望度の順位がついた決め手は何でしたか?
「志望度の順位がついた決め手は何だったか?」という問いに対して、「学部・学科共通の科目・カリキュラム」「学部・学科の内容」「取得できる資格・資格サポート」が多く見られた。
――調査で特に回答が多かったのは、「学部・学科共通の科目・カリキュラム」「学部・学科の内容」「取得できる資格・資格サポート」等でした。皆さんは、このあたりはどのように読み比べていますか?
Sさん:私は、ある程度大学で学びたいことが固まっているので、カリキュラムや教員情報はかなり詳しく読み込みます。たとえば、同じ法学でもどういう分野に重きを置いているのかを知りたいと思っています。将来の進路別のコースが設定されているのであれば、どんなコースでどんなことを学べるのかも確認します。
また、私も就職先は重視したいと思っています。学部ごとの就職先を見ることで、学んだ内容と仕事のつながりがわかります。また、自分が就きたい仕事をしていたり、有名な企業や大企業で働いている先輩がいたりすると、好感を持ちます。もちろん、必ずしも大企業に就職することが良いとは限りませんが、大企業に入るにはある程度優秀でなければいけないと考えているので、この大学に入学して頑張れば自分もそんなふうに成長できるのではないかと想像することができます。
Hさん:資格が気になる人が多いという点は、共感します。私も含めて周囲の友達も、将来に対する不安から、手に職をつけたいという気持ちが強いと思います。就職のことだけではなく、その後も長く働いていくことを考えると、資格がある方が将来的に安心できるのではないかと考えています。
文字が多いページ、難しいキーワードは読み飛ばされやすい
(質問)「学部学科」や「学びの特徴」「学べる内容」の説明ページにおいて、どんなキーワードに目が引かれますか?
学部学科や学びの特徴の紹介ページに頻出するキーワードのうち、高校生の目を引くものを調査。結果、大学が力を入れている取り組みでも、高校生の目に留まりにくいものも多くあることがわかった。
――調査では、学校案内で紹介されているキーワードでも、高校生の皆さんの目を引くものと引かないものに大きな差が出ました。たとえば、「PBL」や「産官学連携」「ダブルメジャー」などはあまり目に留まらないようなのですが、皆さんはどう思いますか?
Hさん:「PBL」や「産官学連携」「ダブルメジャー」のようなキーワードは、あまり聞いたことがなく、ピンときませんでした。一方「少人数教育」はわかるし、個人的には興味があるので、そういったキーワードがあれば、私は詳しく読みます。
Kさん:「PBL」は学校案内によく載っている言葉なので見たことはあるのですが、詳しくはわからないです。
――「PBL」も「産官学連携」も、内容を説明すれば皆さんにも意味がわかると思うのですが、わかりやすい言葉で見出しをつくることが大切そうですね。
(質問)あなたが学校案内に求める、見開き1ページあたりの文字量は次のうちどれですか?
学校案内に求める見開き1ページあたりの文字量の調査では、「写真と文字のバランスが取れている」見本への支持が最も高かった。
――逆に、こういった説明ページならば文字がどれだけ多くても構わない、というケースはありますか?
Sさん:文字が多いページの場合、ただ長い文章で書かれているのではなく、表にまとめてあったり読みやすい配置だと、読みたいと思います。情報の見やすさを重視しているなら、文字が多くてもいいなと思います。あと、入試情報については写真があってもあまり意味がないし、何より自分にとっても必須な情報なので文字は多くても頑張って読みます。
Hさん:表をつかってほしいというのは同意見です。いくつかの学校案内を読んでいると、同じ学部や学科であれば授業内容も大きくは変わらないと感じるので、その説明がぎっしりだと、たとえそれが自分の志望分野でもあまり読む気がせず、斜め読み程度でした。それよりも、学年ごとのカリキュラムが表や図解になっていて、1年でどのくらいの専門科目があるのかなど、パッと見てわかるといいなと思います。
~ 座談会を終えて ~
現役高校生は学部学科情報に最も注目。情報量のバランス見直しでアピールを
今回のアンケ―ト調査では、高校生が学校案内に対して、「どのようなことが学べるのか」という情報を想像以上に求めていることが明らかになりました。特に「自分に合うかどうか」という観点で、興味のある学部学科の紹介ページはコース内容や特徴的な科目内容までしっかりと読み比べる傾向があるようです。そうなると、総合的な大学案内として1冊でまとめるよりも、学部ごとの情報を詳しくまとめた分冊を発行するのが良いのでは、という考え方もあるかもしれませんが、調査結果によると必ずしも学部別の分冊を求めるニーズに直結はしていないようです。また、読まれているページと読まれていないページには、目を引くキーワードがあるか否か、あるいは見やすいレイアウトか、など大きな差があります。これらを考慮すると、総合案内の中で読まれていない項目のページを思い切ってカットもしくは縮小し、学部学科紹介など高校生にニーズのあるページを増やすなど、ページ数の割振りの大胆な見直しも高校生にアピールする手段になりえるのではないでしょうか。
また、高校生が就職(就職率・主な就職先)や資格に関連した情報を知りたいと考え、進学先選びの重要な判断材料とする背景には、不確実で変化の激しい将来に対する漠然とした不安があることを想定していましたが、実際の声として聞くことができました。
全体を通して、高校生の興味の誘導には、高校生にも伝わりやすいキーワードを取り入れた見出しなど目立つ文字情報のほかに、数字やチャート、図版など、見せ方の工夫が有効であるという点についても改めて確認できました。また、読みやすい内容で「伝わること」自体が志望度を上げる要素にもなる様子を窺うことができました。(研究員 青木湧作)